ウエスタン・アセット発行の『グローバル・クレジット・モニター』では、世界のクレジット市場全体のトレンド、需給動向、及びレラティブ・バリューを総合的に評価し、関連する情報を債券投資家の皆様にご提供します。 |
マクロ経済概況世界経済は、欧州、英国、中国に牽引され、引き続き減速している。米国は、成長がさらに鈍化しながらも、景気後退は依然回避されると予想している。インフレは、多くの国で製造業とサービス業の需要が弱まり、中国でデフレ圧力が高まっているため、物価上昇圧力は世界的に緩和されつつある。こうした傾向は、主要中銀による金融引き締めの累積効果と相まって、世界経済の成長とインフレをさらに抑制し、ひいては先進国の国債利回りの低下と小幅な米ドル安につながると予想される。また、こうしたマクロ環境は、新興国、特に中南米諸国の支援材料となるため、市場をアウトパフォームすると予想している。ハイ・イールド、バンクローン、MBS(モーゲージ担保証券)の一部などのスプレッド・セクターは魅力的な利回りを提供しているが、中央銀行の政策、マクロ環境に対するセンチメント、地政学的動向等の予期せぬ変化に対して脆弱とみている。予想を上回る米国の経済成長や、増大する財政赤字を賄うための米国債の供給増加、各国中銀の目標水準を上回るインフレ率などの要因を背景に、金利環境に対する「高金利の長期化」懸念が長引くことも、市場ボラティリティの上昇局面につながる可能性がある。 |
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Cash Is Not Always King 現金が常に王様であるとは限らない 当社は、今年予想されている米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの幅やタイミングに関わらず、債券は魅力的なリスク調整後リターンを提供する可能性があると考えている。例えば、FRBの過去6回の利上げサイクルにおける債券と現金のパフォーマンスを比べると、最初の利上げから3年間にわたり投資家が債券を保有し続けていたとしたら、債券は現金を大幅に上回るリターンを生み出していたことになる(図1参照)。 図1:債券と現金のパフォーマンス比較(最初の利上げを起点とした累積リターン 債券は、アップサイドのリターンの可能性だけでなく、大きな分散効果も期待できる(図2参照)。債券は現金を大幅にアウトパフォームしており、また株式リスクを相殺する役割も果たしている。より詳細な議論については、当社のブログ「Cash is Not Always King」を参照いただきたい。そこでは、伝統的な60:40の分散型ポートフォリオや再投資リスクなどについても述べている。 |
グローバル・クレジット市場:レラティブバリュー |
投資適格社債市場 ハイ・イールド社債市場 地方債市場 住宅ローン&消費者ローン・クレジット市場 エマージング市場 |
Cash Is Not Always King 現金が常に王様であるとは限らない 当社は、今年予想されている米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの幅やタイミングに関わらず、債券は魅力的なリスク調整後リターンを提供する可能性があると考えている。例えば、FRBの過去6回の利上げサイクルにおける債券と現金のパフォーマンスを比べると、最初の利上げから3年間にわたり投資家が債券を保有し続けていたとしたら、債券は現金を大幅に上回るリターンを生み出していたことになる(図1参照)。 図1:債券と現金のパフォーマンス比較(最初の利上げを起点とした累積リターン 債券は、アップサイドのリターンの可能性だけでなく、大きな分散効果も期待できる(図2参照)。債券は現金を大幅にアウトパフォームしており、また株式リスクを相殺する役割も果たしている。より詳細な議論については、当社のブログ「Cash is Not Always King」を参照いただきたい。そこでは、伝統的な60:40の分散型ポートフォリオや再投資リスクなどについても述べている。 |
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グローバル・クレジット市場:レラティブバリュー
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投資適格社債市場 ハイ・イールド社債市場 地方債市場 住宅ローン&消費者ローン・クレジット市場 エマージング市場 |
グローバル社債セクターの概要
自動車関連 |
主な見通し 米国市場に対する現在の当社の評価に基づくと、2024年度末における米国の小型乗用車の販売台数は季節調整済み年率換算で1,550万台になると予想される。サプライチェーンの改善や、販売店レベルでの在庫補充などにより、自動車メーカーの生産能力が改善し始めている。その一方で、金利上昇の影響により消費者の月々の金利負担が増加していることや、今年の後半に景気後退に陥る恐れがあることから、消費者の需要が鈍化している。デトロイトの3大自動車メーカー(フォード、ゼネラルモーターズ、およびステランティス)は持続可能な資本構造を維持し、堅実な製品ラインを展開しているため、以前よりも投資妙味が高まっている。自動車セクターにはキャプティブ・ファイナンス会社(アリー・ファイナンシャル、フォード・モーター・クレジット、およびGMファイナンシャル)も含まれている。これらの会社は堅調な業績を上げ、バランスシートも改善しているため、格付けが引き上げられた。当社では、自動車ローンの融資基準が緩和されるとの見通しを維持しており、信用力が低い借り手に対するサブプライム・ローンの延滞が増える可能性があると考えている。米国における自動車の売上が厳しい状況にある中で、ウエスタン・アセットは自動車業界に対して中立的な見通しを持っているが、全米自動車労働組合のストライキ、米国のマクロ経済の不透明感、米中間の対立、および欧州企業の収益力の低迷などを踏まえ、より悲観的な見方に切り替える可能性がある。 |
銀行 |
主な見通し 前四半期に続き、格付けが高い世界的な銀行を大幅にオーバーウエイトしている。特に、世界金融危機(GFC)以降、リスクが少ないビジネスモデルを採用し、底堅い業績を維持している銀行に注目している。規制の厳格化、監視機能の強化、資本・流動性要件の大幅な引き上げ、高額な罰金、およびリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は大きく改善しているため、銀行セクターに対して前向きな見通しを維持している。米国では、大手銀行が堅調な一方で、複数の中堅の地方銀行が2023年に経営破綻した。この経営破綻は個別要因によるものであり、システミック・リスクに発展する可能性は低いと考えられる。また、地方銀行の預金が大手銀行に流れているため、大手銀行はその恩恵を受けると見込まれる。地政学的・経済的な不透明感が高く、特にオフィス需要の減少などをめぐり、銀行の商業用不動産セクターへの投資環境の懸念が高い状況が続いているものの、銀行のファンダメンタルズはここ数十年で最も堅固な状態にあると考えられる。その一方で、弱気の信用格付けや、株式バリュエーション、クレジット・スプレッドなどに見られるように、格付け会社や投資家は銀行に対して懐疑的な見通しを持っている。ここ10年間にわたり、世界の銀行はベストプラクティスを取り入れており、経営に対する監視機能も強化されているため、銀行はよりシンプル、安全、かつ強靭な業界に成長したと考えられる。世界金融危機以降、より保守的なストレステストが実施されている中で、銀行は大幅な損失に対する頑健性を維持すると見込まれ、緩やかな景気後退および(または)経済成長の鈍化局面においても好業績を達成できると予想される。さらに、世界的な金利上昇環境は銀行の利益を押し上げる要因である。 |
エネルギー |
主な見通し エネルギー転換に向けた取り組みが進んでいるものの、石油と天然ガスはエネルギーミックスの中で今後も大きな割合を占めるだろう。当セクターでは「トータル・リターン」よりも「キャリー」に着目して投資しているが、整理統合が進んでいることを踏まえると、トータル・リターンを狙うことも可能と考えられる。経済面の不透明感の高まり、中央銀行の金融引き締め、および景気後退懸念の緩和などを背景に、経済のソフトランディング観測が強まっている中、石油需要がやや鈍化している。また、世界60カ国以上(世界の人口の半分以上を占める)で選挙が予定されており、エネルギー問題が選挙戦の争点の一つになると考えられる。供給面では、OPECプラスの減産、地政学的リスクの高まり、主要なチョークポイント(原油輸送の要衝)に支障が出るリスクが注目されたこと等を受け、原油価格に上昇圧力がかかっている。米国ではシェールオイル生産の伸び率は鈍化しつつも拡大が続くと見込む。原油在庫の減少や、石油製品在庫が相対的に低水準であることも、原油価格の下支え要因になるだろう。米国のエネルギー会社は引き続き設備投資を抑制し、株主利益のために余剰フリーキャッシュフローの最大化に努めている。また、米国のエネルギー会社はこれまで債務削減に注力していたため、バランスシートは比較的健全で、流動性要件も満たされている。生産目標の引き上げが一段落し、多くのケースで生産量が減少している。こうした中、エネルギー会社は生産量を増やす代わりに、M&Aを活発に行い、既存の事業基盤を強化し、新たな地域に進出し、事業規模を拡大している。M&Aにおいては、企業の経営陣はより多くの自己資本を使用しているが、これは事業の景気循環性を考慮し、バランスシートと流動性を適切に管理するための措置であると考えられる。以前にも言及したように、エネルギーミックスにおいて化石燃料は引き続き重要な役割を担うと見込まれるため、エネルギー価格は不安定に推移すると予想される。 |
食品・飲料 |
主な見通し 金利は高止まりしているが、健全な労働市場やインフレ率鈍化による消費者の購買力上昇により、個人消費は底堅く推移している。人件費や物流費が緩やかに上昇する中、食品・飲料メーカーは食品小売業者と相互に協力し、節約志向の消費者にターゲットを絞った販促活動を展開。原材料費やコモディティ価格が上昇する一方で、値下げ圧力に直面している。消費者は価格に敏感である一方で、商品価値を重視するため、より低価格のプライベート・ブランド商品へのシフトが進んでいる。こうした厳しい状況の中で、食品会社の成功は消費者ニーズの変化に対応できるかどうかにかかっている。今後12カ月以内に金利が低下する可能性が高い中、当セクターでは2024年もM&Aが活発に行われると予想される。 |
カジノ |
主な見通し マカオとシンガポールのカジノ市場は中長期的に引き続き好調、米国カジノ市場はより安定した成長を遂げると予想される。しかし、この点を考慮すると、当セクターのバリュエーションは、活動の力強い回復を反映している。当社は、特に米国の地域市場とラスベガスにおいて、平均を上回るマージンの持続性に引き続き注目している。以上を踏まえ、当セクターは中立ポジションとする。また、マカオは今後6~12カ月において高いトータル・リターンを生み出す可能性があるため、マカオへのエクスポージャーを維持する方針。 |
ヘルスケア |
主な見通し 投資適格級では、循環的・長期的な信用力の悪化、割高なバリュエーション、およびネガティブなイベント・リスクなどを踏まえ、引き続きアンダーウエイトとする。プロバイダー(ヘルスケア・サービス・プロバイダーおよび医薬品会社)よりも、高い価格決定力を持ち、安定した売上高を維持しているペイヤー(健康保険会社)を引き続き選好する。非投資適格級では、コロナ禍後の繰り延べ需要や、夏季休暇後の外科手術の増加により、診療件数は堅調に推移すると予想され、例年並みか、それをやや上回る水準になると見込まれる。契約社員の利用率、看護師の離職率、労働者の賃金は引き続き改善傾向を示している。カリフォルニア州議会では最低賃金を引き上げる法案が審議中で、同州に拠点を置く非投資適格級の病院(特にテネット・ヘルスケア)では人件費が上昇する可能性がある。米国では約7万5,000人の医療従事者が賃上げを求めてストライキを行う見通しであり、派遣労働者の賃金が上昇する可能性もある。立法面では、医療の透明化、薬剤給付管理改革、医療サービスを受けた場所にかかわらず同額の支払いとする改革、および年末の医療提案などに関する法案が議会で審議されている。 |
金属・鉱業 |
主な見通し 利回りはまずまずのキャリーを提供しており、特にM&Aが活発化し始めている中で、トータル・リターンを高める機会もある。また、個別の状況も同様の機会を提供。マクロ環境が引き続き重要な要素であり、ソフトランディング見通し、FRBによる利下げの可能性、および中国の景気回復ペースなどに注目している。世界的に需要が鈍化し、工場受注が落ち込んでいる。一方、中国は在庫を補充し始め、受注が増加しているように思われる。当社は建設/不動産需要や公共事業/電力需要を引き続き見守っている。中国の旧正月の時期には需要が一時的に低迷する見込みだが、コモディティ需要を喚起する政策の実施について今後も注視する方針。エネルギー転換は金属市場において重要なテーマであり、取り組みが進んでいる。当社は引き続き銅に注目する。銅精鉱市場の逼迫を受け、供給見通しが悪化、銅生産会社は生産計画を相次いで下方修正した。しかし、供給不足の影響はまだ完全に明らかになっていない。以前にも述べたが、金属業界では設備投資(および資本配分全般)が抑制されており、企業の経営陣はバランスシートの保護と流動性の確保に注力し、景気減速を乗り切ることに努めている。現在、バランスシートが改善し、フリーキャッシュフローが大幅に増加しているため、経営陣は余剰フリーキャッシュフローを株主還元に充当している。成長見通しが不透明であり、設備投資が抑制される中、当セクターでは整理統合やM&Aが相次いでいる。今後も、引き続き銘柄を厳選し、中でも銅関連の銘柄に注目する。 |
医薬品 |
主な見通し 投資適格級では、複数の悪材料を背景に、アンダーウエイトを引き続き推奨する。第一に、規制・立法において、米連邦取引委員会とアムジェンとの和解は、特にM&Aにおける規制当局の監視の強化を示唆している。第ニに、インフレ抑制法の施行により、当セクターの不透明感が高まったように思われる。同法の完全な影響はまだ確認されていないが、法律の条項により、医薬品会社が課題に直面することは明らかであり、長期的な影響をもたらす可能性もあると考えられる。第三に、特許の崖がもたらすリスクを注視する必要がある。対象として、アムジェン、アッヴィー、ファイザー、メルク、ブリストル・マイヤーズ等の大企業が名を連ねている。特許の満了により医薬品会社の売上が減少した場合、売上回復に向けて技術革新や買収が必要とされるだろう。非投資適格級については、短期的には固有のイベントが注目されるだろう(オピオイド訴訟に関する裁判、特許の問題、スピンオフ取引など)。今後数年間は投資適格級に格上げが見込まれるライジングスター候補銘柄が増えると予想される。高格付け以外では、低格付けの特殊医薬品会社が厳しい状況に直面している。2024年には積極的な負債管理取引が行われると予想される。 |
小売 |
主な見通し 消費者は、新型コロナ禍で増えた貯蓄を使い果たしたようだ。しかし、1月17日発表の昨年12月の小売売上高は前月比0.6%増と、市場予想を上回った。全体的に、最近のマクロ経済情勢は当セクターにとって好材料である。実際に、FRBの利下げ観測を受け、住宅ローン金利が低下に転じており、これによって消費者の信頼感や購買力が改善する可能性がある。当セクターを詳細に見てみると、サブセクターごとに大きな違いがある。例えば、高級品セクターは厳しい状況に直面しており、欧州では1月前半に業績下方修正やネガティブ・サプライズが相次いだ。その一方で、ディスカウント店業績は非常に好調である。また、パナマ運河やスエズ運河を経由する航路で海上物流が混乱し、コンテナ船の運賃が高騰、輸送遅延が発生している。こうしたことから、サブセクターや個別銘柄の選択がポートフォリオのパフォーマンスに大きく影響すると考えられる。 |
通信・メディア |
主な見通し 新型コロナ禍の影響により、ワイヤレス通信の高速化や回線容量の拡大などが急務となり、設備投資の必要性が高まった。通信事業各社はそれぞれのペースで設備投資計画を進めている。米国大手の無線・有線通信事業者は2020年後半に周波数免許の取得などに巨額投資を行ったが、その後は設備投資額は減少に転じている。通信事業者は現在、バランスシートの修復を優先しており、今後数年間でのレバレッジ目標を達成に努めている。米国のケーブル・セクターでは、大手事業者が通信ネットワークの整備・拡充を進めているが、その中でも各社は財務規律を非常に重視している。全体として、大手通信事業者は2024年に好業績を維持すると予想されるため、通信セクターは安定した信用力を維持すると考えられる。欧州では、英国、イタリア、およびスペインなどの通信業界で整理統合が進む可能性があり、これによって市場の修復が進み、使用資本利益率(ROCE)が向上する可能性があると見込まれる。米国では、市場浸透率が高いため、通信・ケーブル事業者は互いの市場でシェア拡大を追求する状況が続くだろう。ケーブル事業者は非常に魅力的なモバイル・バンドル・サービスを提供する一方、無線・有線通信事業者は固定ワイヤレス商品(ホーム・ブロードバンド・サービス)を引き続き提供している。 |
輸送 |
主な見通し 北米では2023年、航空会社のキャパシティ(総座席数)が2019年の水準の94%にまで回復した。2024年には2019年の水準まで完全に回復すると予想されている。しかし、OEMの納期の遅れや業務上の問題(航空管制スタッフの不足、空港における航空機の乗り入れ制限、およびサプライチェーンの混乱など)により、キャパシティの伸びが抑えられる恐れがある。航空機不足により航空機の価値が高まっており、航空会社と航空機リース会社はその恩恵を受けている。2023年に採用が増加し、賃金が引き上げられたことから、パイロット不足の問題がようやく解消されつつある。今後、航空業界は多くのマクロ経済問題に直面する可能性があるが、いくつかの航空会社はコロナ禍の間に収益源の多様化を図り、需要の変動が比較的小さいロイヤリティ、貨物、法人、および整備・修理・オーバーホール(MRO)などの事業に進出した。2023年に好業績を上げた一部の航空会社は配当を復活し、今年は株主還元をさらに強化する可能性がある。 |
公益 |
主な見通し バリュエーションがやや魅力的であることを踏まえ、当セクターのアンダーウエイト幅を縮小(ただし、アンダーウエイトは維持)。依然として、厳選した発行体の第一順位抵当権付社債に優先的に投資し、無担保事業会社や持株会社の社債にも選択的に投資している。とは言うものの、引き続き投資先を厳選する。フリーキャッシュフローは引き続きマイナスで、経営陣は格付け会社が設定した格下げ基準すれすれの事業運営を行っている。各社が再生可能エネルギー目標の達成に向けて巨額の設備投資を行っていることや、米国のインフラ資産の老朽化に伴い、各社が送電・配電網の整備に大規模な投資を行っていることもフリーキャッシュフローがマイナスであり、また減少する要因となっている。経営陣は新株発行による資金調達を制限する一方、社債発行を継続しているため、当セクターの信用力は過去の水準より悪化している。一方、規制当局は値上げを承認したため、各社は値上げを行い、コスト増加分(資金調達コストの増加を含む)を顧客に転嫁することが可能である。したがって、公益企業は規制当局と良好な関係を維持することが重要であり、当社は規制当局との関係悪化を招くような変化や出来事がないか、また、公益企業が値上げによってコスト増加分を回収できるかどうかを監視している。経営陣はポートフォリオの最適化に取り組んでおり、規制を受けていない事業や電力以外の事業を縮小している。その一方で、経営陣は事業の売却資金を(1)設備投資、(2)バランスシートの修復(資本構成に占める持株会社の負債比率の縮小)、および(3)株主還元に充当している。 |
セクター | 主な見通し |
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自動車関連 | 米国市場に対する現在の当社の評価に基づくと、2024年度末における米国の小型乗用車の販売台数は季節調整済み年率換算で1,550万台になると予想される。サプライチェーンの改善や、販売店レベルでの在庫補充などにより、自動車メーカーの生産能力が改善し始めている。その一方で、金利上昇の影響により消費者の月々の金利負担が増加していることや、今年の後半に景気後退に陥る恐れがあることから、消費者の需要が鈍化している。デトロイトの3大自動車メーカー(フォード、ゼネラルモーターズ、およびステランティス)は持続可能な資本構造を維持し、堅実な製品ラインを展開しているため、以前よりも投資妙味が高まっている。自動車セクターにはキャプティブ・ファイナンス会社(アリー・ファイナンシャル、フォード・モーター・クレジット、およびGMファイナンシャル)も含まれている。これらの会社は堅調な業績を上げ、バランスシートも改善しているため、格付けが引き上げられた。当社では、自動車ローンの融資基準が緩和されるとの見通しを維持しており、信用力が低い借り手に対するサブプライム・ローンの延滞が増える可能性があると考えている。米国における自動車の売上が厳しい状況にある中で、ウエスタン・アセットは自動車業界に対して中立的な見通しを持っているが、全米自動車労働組合のストライキ、米国のマクロ経済の不透明感、米中間の対立、および欧州企業の収益力の低迷などを踏まえ、より悲観的な見方に切り替える可能性がある。 |
銀行 | 前四半期に続き、格付けが高い世界的な銀行を大幅にオーバーウエイトしている。特に、世界金融危機(GFC)以降、リスクが少ないビジネスモデルを採用し、底堅い業績を維持している銀行に注目している。規制の厳格化、監視機能の強化、資本・流動性要件の大幅な引き上げ、高額な罰金、およびリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は大きく改善しているため、銀行セクターに対して前向きな見通しを維持している。米国では、大手銀行が堅調な一方で、複数の中堅の地方銀行が2023年に経営破綻した。この経営破綻は個別要因によるものであり、システミック・リスクに発展する可能性は低いと考えられる。また、地方銀行の預金が大手銀行に流れているため、大手銀行はその恩恵を受けると見込まれる。地政学的・経済的な不透明感が高く、特にオフィス需要の減少などをめぐり、銀行の商業用不動産セクターへの投資環境の懸念が高い状況が続いているものの、銀行のファンダメンタルズはここ数十年で最も堅固な状態にあると考えられる。その一方で、弱気の信用格付けや、株式バリュエーション、クレジット・スプレッドなどに見られるように、格付け会社や投資家は銀行に対して懐疑的な見通しを持っている。ここ10年間にわたり、世界の銀行はベストプラクティスを取り入れており、経営に対する監視機能も強化されているため、銀行はよりシンプル、安全、かつ強靭な業界に成長したと考えられる。世界金融危機以降、より保守的なストレステストが実施されている中で、銀行は大幅な損失に対する頑健性を維持すると見込まれ、緩やかな景気後退および(または)経済成長の鈍化局面においても好業績を達成できると予想される。さらに、世界的な金利上昇環境は銀行の利益を押し上げる要因である。 |
エネルギー | エネルギー転換に向けた取り組みが進んでいるものの、石油と天然ガスはエネルギーミックスの中で今後も大きな割合を占めるだろう。当セクターでは「トータル・リターン」よりも「キャリー」に着目して投資しているが、整理統合が進んでいることを踏まえると、トータル・リターンを狙うことも可能と考えられる。経済面の不透明感の高まり、中央銀行の金融引き締め、および景気後退懸念の緩和などを背景に、経済のソフトランディング観測が強まっている中、石油需要がやや鈍化している。また、世界60カ国以上(世界の人口の半分以上を占める)で選挙が予定されており、エネルギー問題が選挙戦の争点の一つになると考えられる。供給面では、OPECプラスの減産、地政学的リスクの高まり、主要なチョークポイント(原油輸送の要衝)に支障が出るリスクが注目されたこと等を受け、原油価格に上昇圧力がかかっている。米国ではシェールオイル生産の伸び率は鈍化しつつも拡大が続くと見込む。原油在庫の減少や、石油製品在庫が相対的に低水準であることも、原油価格の下支え要因になるだろう。米国のエネルギー会社は引き続き設備投資を抑制し、株主利益のために余剰フリーキャッシュフローの最大化に努めている。また、米国のエネルギー会社はこれまで債務削減に注力していたため、バランスシートは比較的健全で、流動性要件も満たされている。生産目標の引き上げが一段落し、多くのケースで生産量が減少している。こうした中、エネルギー会社は生産量を増やす代わりに、M&Aを活発に行い、既存の事業基盤を強化し、新たな地域に進出し、事業規模を拡大している。M&Aにおいては、企業の経営陣はより多くの自己資本を使用しているが、これは事業の景気循環性を考慮し、バランスシートと流動性を適切に管理するための措置であると考えられる。以前にも言及したように、エネルギーミックスにおいて化石燃料は引き続き重要な役割を担うと見込まれるため、エネルギー価格は不安定に推移すると予想される。 |
食品・飲料 | 金利は高止まりしているが、健全な労働市場やインフレ率鈍化による消費者の購買力上昇により、個人消費は底堅く推移している。人件費や物流費が緩やかに上昇する中、食品・飲料メーカーは食品小売業者と相互に協力し、節約志向の消費者にターゲットを絞った販促活動を展開。原材料費やコモディティ価格が上昇する一方で、値下げ圧力に直面している。消費者は価格に敏感である一方で、商品価値を重視するため、より低価格のプライベート・ブランド商品へのシフトが進んでいる。こうした厳しい状況の中で、食品会社の成功は消費者ニーズの変化に対応できるかどうかにかかっている。今後12カ月以内に金利が低下する可能性が高い中、当セクターでは2024年もM&Aが活発に行われると予想される。 |
カジノ | マカオとシンガポールのカジノ市場は中長期的に引き続き好調、米国カジノ市場はより安定した成長を遂げると予想される。しかし、この点を考慮すると、当セクターのバリュエーションは、活動の力強い回復を反映している。当社は、特に米国の地域市場とラスベガスにおいて、平均を上回るマージンの持続性に引き続き注目している。以上を踏まえ、当セクターは中立ポジションとする。また、マカオは今後6~12カ月において高いトータル・リターンを生み出す可能性があるため、マカオへのエクスポージャーを維持する方針。 |
ヘルスケア | 投資適格級では、循環的・長期的な信用力の悪化、割高なバリュエーション、およびネガティブなイベント・リスクなどを踏まえ、引き続きアンダーウエイトとする。プロバイダー(ヘルスケア・サービス・プロバイダーおよび医薬品会社)よりも、高い価格決定力を持ち、安定した売上高を維持しているペイヤー(健康保険会社)を引き続き選好する。非投資適格級では、コロナ禍後の繰り延べ需要や、夏季休暇後の外科手術の増加により、診療件数は堅調に推移すると予想され、例年並みか、それをやや上回る水準になると見込まれる。契約社員の利用率、看護師の離職率、労働者の賃金は引き続き改善傾向を示している。カリフォルニア州議会では最低賃金を引き上げる法案が審議中で、同州に拠点を置く非投資適格級の病院(特にテネット・ヘルスケア)では人件費が上昇する可能性がある。米国では約7万5,000人の医療従事者が賃上げを求めてストライキを行う見通しであり、派遣労働者の賃金が上昇する可能性もある。立法面では、医療の透明化、薬剤給付管理改革、医療サービスを受けた場所にかかわらず同額の支払いとする改革、および年末の医療提案などに関する法案が議会で審議されている。 |
金属・鉱業 | 利回りはまずまずのキャリーを提供しており、特にM&Aが活発化し始めている中で、トータル・リターンを高める機会もある。また、個別の状況も同様の機会を提供。マクロ環境が引き続き重要な要素であり、ソフトランディング見通し、FRBによる利下げの可能性、および中国の景気回復ペースなどに注目している。世界的に需要が鈍化し、工場受注が落ち込んでいる。一方、中国は在庫を補充し始め、受注が増加しているように思われる。当社は建設/不動産需要や公共事業/電力需要を引き続き見守っている。中国の旧正月の時期には需要が一時的に低迷する見込みだが、コモディティ需要を喚起する政策の実施について今後も注視する方針。エネルギー転換は金属市場において重要なテーマであり、取り組みが進んでいる。当社は引き続き銅に注目する。銅精鉱市場の逼迫を受け、供給見通しが悪化、銅生産会社は生産計画を相次いで下方修正した。しかし、供給不足の影響はまだ完全に明らかになっていない。以前にも述べたが、金属業界では設備投資(および資本配分全般)が抑制されており、企業の経営陣はバランスシートの保護と流動性の確保に注力し、景気減速を乗り切ることに努めている。現在、バランスシートが改善し、フリーキャッシュフローが大幅に増加しているため、経営陣は余剰フリーキャッシュフローを株主還元に充当している。成長見通しが不透明であり、設備投資が抑制される中、当セクターでは整理統合やM&Aが相次いでいる。今後も、引き続き銘柄を厳選し、中でも銅関連の銘柄に注目する。 |
医薬品 | 投資適格級では、複数の悪材料を背景に、アンダーウエイトを引き続き推奨する。第一に、規制・立法において、米連邦取引委員会とアムジェンとの和解は、特にM&Aにおける規制当局の監視の強化を示唆している。第ニに、インフレ抑制法の施行により、当セクターの不透明感が高まったように思われる。同法の完全な影響はまだ確認されていないが、法律の条項により、医薬品会社が課題に直面することは明らかであり、長期的な影響をもたらす可能性もあると考えられる。第三に、特許の崖がもたらすリスクを注視する必要がある。対象として、アムジェン、アッヴィー、ファイザー、メルク、ブリストル・マイヤーズ等の大企業が名を連ねている。特許の満了により医薬品会社の売上が減少した場合、売上回復に向けて技術革新や買収が必要とされるだろう。非投資適格級については、短期的には固有のイベントが注目されるだろう(オピオイド訴訟に関する裁判、特許の問題、スピンオフ取引など)。今後数年間は投資適格級に格上げが見込まれるライジングスター候補銘柄が増えると予想される。高格付け以外では、低格付けの特殊医薬品会社が厳しい状況に直面している。2024年には積極的な負債管理取引が行われると予想される。 |
小売 | 消費者は、新型コロナ禍で増えた貯蓄を使い果たしたようだ。しかし、1月17日発表の昨年12月の小売売上高は前月比0.6%増と、市場予想を上回った。全体的に、最近のマクロ経済情勢は当セクターにとって好材料である。実際に、FRBの利下げ観測を受け、住宅ローン金利が低下に転じており、これによって消費者の信頼感や購買力が改善する可能性がある。当セクターを詳細に見てみると、サブセクターごとに大きな違いがある。例えば、高級品セクターは厳しい状況に直面しており、欧州では1月前半に業績下方修正やネガティブ・サプライズが相次いだ。その一方で、ディスカウント店業績は非常に好調である。また、パナマ運河やスエズ運河を経由する航路で海上物流が混乱し、コンテナ船の運賃が高騰、輸送遅延が発生している。こうしたことから、サブセクターや個別銘柄の選択がポートフォリオのパフォーマンスに大きく影響すると考えられる。 |
通信・メディア | 新型コロナ禍の影響により、ワイヤレス通信の高速化や回線容量の拡大などが急務となり、設備投資の必要性が高まった。通信事業各社はそれぞれのペースで設備投資計画を進めている。米国大手の無線・有線通信事業者は2020年後半に周波数免許の取得などに巨額投資を行ったが、その後は設備投資額は減少に転じている。通信事業者は現在、バランスシートの修復を優先しており、今後数年間でのレバレッジ目標を達成に努めている。米国のケーブル・セクターでは、大手事業者が通信ネットワークの整備・拡充を進めているが、その中でも各社は財務規律を非常に重視している。全体として、大手通信事業者は2024年に好業績を維持すると予想されるため、通信セクターは安定した信用力を維持すると考えられる。欧州では、英国、イタリア、およびスペインなどの通信業界で整理統合が進む可能性があり、これによって市場の修復が進み、使用資本利益率(ROCE)が向上する可能性があると見込まれる。米国では、市場浸透率が高いため、通信・ケーブル事業者は互いの市場でシェア拡大を追求する状況が続くだろう。ケーブル事業者は非常に魅力的なモバイル・バンドル・サービスを提供する一方、無線・有線通信事業者は固定ワイヤレス商品(ホーム・ブロードバンド・サービス)を引き続き提供している。 |
輸送 | 北米では2023年、航空会社のキャパシティ(総座席数)が2019年の水準の94%にまで回復した。2024年には2019年の水準まで完全に回復すると予想されている。しかし、OEMの納期の遅れや業務上の問題(航空管制スタッフの不足、空港における航空機の乗り入れ制限、およびサプライチェーンの混乱など)により、キャパシティの伸びが抑えられる恐れがある。航空機不足により航空機の価値が高まっており、航空会社と航空機リース会社はその恩恵を受けている。2023年に採用が増加し、賃金が引き上げられたことから、パイロット不足の問題がようやく解消されつつある。今後、航空業界は多くのマクロ経済問題に直面する可能性があるが、いくつかの航空会社はコロナ禍の間に収益源の多様化を図り、需要の変動が比較的小さいロイヤリティ、貨物、法人、および整備・修理・オーバーホール(MRO)などの事業に進出した。2023年に好業績を上げた一部の航空会社は配当を復活し、今年は株主還元をさらに強化する可能性がある。 |
公益 | バリュエーションがやや魅力的であることを踏まえ、当セクターのアンダーウエイト幅を縮小(ただし、アンダーウエイトは維持)。依然として、厳選した発行体の第一順位抵当権付社債に優先的に投資し、無担保事業会社や持株会社の社債にも選択的に投資している。とは言うものの、引き続き投資先を厳選する。フリーキャッシュフローは引き続きマイナスで、経営陣は格付け会社が設定した格下げ基準すれすれの事業運営を行っている。各社が再生可能エネルギー目標の達成に向けて巨額の設備投資を行っていることや、米国のインフラ資産の老朽化に伴い、各社が送電・配電網の整備に大規模な投資を行っていることもフリーキャッシュフローがマイナスであり、また減少する要因となっている。経営陣は新株発行による資金調達を制限する一方、社債発行を継続しているため、当セクターの信用力は過去の水準より悪化している。一方、規制当局は値上げを承認したため、各社は値上げを行い、コスト増加分(資金調達コストの増加を含む)を顧客に転嫁することが可能である。したがって、公益企業は規制当局と良好な関係を維持することが重要であり、当社は規制当局との関係悪化を招くような変化や出来事がないか、また、公益企業が値上げによってコスト増加分を回収できるかどうかを監視している。経営陣はポートフォリオの最適化に取り組んでおり、規制を受けていない事業や電力以外の事業を縮小している。その一方で、経営陣は事業の売却資金を(1)設備投資、(2)バランスシートの修復(資本構成に占める持株会社の負債比率の縮小)、および(3)株主還元に充当している。 |