2024年7月 ~9月期

市場概況:The Big Picture

経済動向やクレジット市場に関するウエスタン・アセットの 最新の見解を債券投資家の皆様にご提供いたします。

世界的にディスインフレが進行し ており、米国のコア個人消費支出(PCE)価格指数はFRBの目標である 2%に近づいている。米国経済は堅 調さを維持しているが、緩やかに 減速すると予想される。ただし、景 気後退に陥る可能性は低いと思わ れる。こうした中で、FRBは年内に 利下げに踏み切ると見込まれる。11 月の米大統領選挙を控え、ボラティ リティが高まる可能性はあるものの、 市場への影響は限定的と見込まれ る。高格付けのハイ・イールド債、バ ンクローン、ローン担保証券(CLO)、 および現地通貨建てエマージング 債券(特にメキシコの債券)などに 投資妙味があると見ている。

マイケル C. ブキャナン
共同最高投資責任者(Co-CIO)
要約
  • 米国では、労働市場の軟化や、財インフレとサービス・インフレの鈍化などを受 け、債券利回りに低下圧力がかかる可能性がある。今年後半に予想される米連 邦準備制度理事会(FRB)の利下げは、政治をめぐる不透明感により市場のボ ラティリティが高まったとしても、債券利回りの低下につながる可能性がある。
  • 欧州では、利下げサイクルが始まっている。ディスインフレ傾向が続いている中 で、年内にあと2回の利下げが実施されると見込まれる。
  • 英国では、賃金の伸びの鈍化、財のデフレ進行、および労働市場のスラック(需 給の緩み)などを受け、利下げ観測が一段と高まっている。
  • 中国経済は、大規模な景気刺激策は想定していないが、景気回復を支援する ため、的を絞った政策措置が継続されると見込まれる。

世界的な経済成長は鈍化し、世界のインフレ率もおおむね後退している。中国の 継続的なデフレ圧力、欧米の金融引き締め、複数の国での製造業とサービス業の 需要低下などを背景に、世界的なインフレ上昇圧力は緩和されつつある。こうし た傾向は、主要中銀が慎重かつ段階的な金融緩和策を推進していることと相まっ て、世界経済の成長とインフレをさらに抑制し、ひいては先進国国債利回りの低 下と小幅な米ドル安につながると予想される。ただし、金融政策が失敗する懸念 や、インフレ率が中銀の目標を上回って安定しつつあること、米国の経済成長が 予想以上に強いこと、財政赤字拡大を補うため米国債が増発されていることなど は、いずれも市場ボラティリティの上昇局面につながる可能性がある。エマージン グ債券、ハイ・イールド社債、バンクローン、MBSの一部といったスプレッド・セク ターは、魅力的な利回りを提供しているが、マクロ環境に対するセンチメントの予 期せぬ変化や、地政学的動向、政策金利の道筋に関する不確実性に対して脆弱で あると認識している。

2024年の投資環境は急速に変化している。主要国市場では経済環境が変化しており、西側 諸国では金融・財政政策の調整が進むと予想され、中国では緩やかなデフレ傾向が続いて いる。こうした中で、エマージング市場は2024年に魅力的なキャリーとトータル・リターンを 獲得する機会を提供している。特にフロンティア市場のソブリン債はバリュエーションが割 安であり、各国特有の信用リスク状況を勘案すると、高いトータル・リターンが期待できる。

ケビン J. リッター
エマージング・ マーケット部門 統括責任者

主要ファクターと地域別レラティブバリュー


米国: 経済の ソフトランディングが見込まれる


+

米国では、雇用の伸びが鈍化し、家計の貯蓄率がコロナ禍前の水準に戻る中で、米国の需要は減速すると予想される。緩やかな 財のデフレや、住居費の伸びがコロナ禍前の水準に近づいていること、サービス・インフレが鈍化していることなどから、毎月のコ ア・インフレ率は引き続きFRBの目標水準に近づくと見込まれる。コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回り は高止まりしている。


欧州: 追加利下げが見込まれる


+

欧州中央銀行(ECB)は6月の政策理事会で利下げに踏み切っており、年内にあと2回の利下げが実施されると予想される。インフ レ率は低下しており、ECBの予想通り、今後もディスインフレ傾向が続くとの見方が強まった。景気は底打ちしたように思われるが、 一部の先行指標によると、景気は緩やかな回復にとどまる可能性がある。名目債とインフレ連動債の両方で、デュレーションのオ ーバーウエイトを維持している。


英国: 利下げ開始が視野に入っている


+

英国のインフレ率は5月、イングランド銀行(BoE)の目標である2%まで低下した。サービス価格の伸びが徐々に鈍化し、財のデフ レで打ち消されている。労働市場の逼迫が緩和されつつあり、先行指標によると、賃金の伸びが鈍化する兆しが見られる。こうし た中で、BoEは利下げに踏み切ると見込まれる。英国債はプラスのリターンを生み出すと予想される。


シンジケート・バンクローンを裏付けとするローン担保証券(CLO)のデット・ トランシェに投資機会を見出している。高格付けのトランシェは堅固な構造 的プロテクションを有していることから、バンクローンのスプレッドにとって 強気または弱気のいずれの環境でも引き続き好調なパフォーマンスを上げ ると予想される。したがって、魅力的なリスク調整後リターンが期待される。

ライアン J. コーハン
米国バンクローン 統括責任者

ウエスタン・アセットのセクター別テーマ

投資適格社債


+/–
米国では、企業のファンダメンタルズは引き続き底堅く推移している。企業の利益率やレバレッジは、パンデミック後のピークは下回っている ものの、景気減速を乗り切るには十分に安定している。スプレッドはレンジの中でタイトな水準にあり、すでにソフトランディングを織り込んで いる。したがって、ネガティブ・サプライズに対するクッションはあまり残されていない。しかし、利回りを求める動きが続いているため、需給環 境は良好である。

+/–
欧州では、投資適格社債のファンダメンタルズは堅調さを維持し、資金流入も続いている。スプレッドは前四半期に横ばいで推移し、ほとんど のセクターで長期平均を20bps上回り、フェアバリューである。

+
オーストラリアでは、景気鈍化見通しにもかかわらず、ファンダメンタルズは依然として健全に推移している。当社ではクレジットのオーバーウ エイトを維持、特に短期の銘柄を選好しており、業種については一部のREITと規制に守られた経営を行っている公益およびインフラ・セクター を選好している。また、無担保の金融シニア債や、海外の大手銀行の新発債も選好している。

ハイ・イールド社債


+
米国ハイ・イールド社債のスプレッドは、経営陣の慎重な姿勢、健全なバランスシート、および良好な需給環境を反映している。当社は、新型コ ロナウイルスの感染拡大に伴う不況からまだ回復途上にあるサービス関連セクター(航空、クルーズ船、およびホテルなど経済活動を再開した 業種)や、エネルギーセクター(E&P)、ライジングスター候補銘柄に引き続き、投資機会を見出している。消費財や小売り業、住宅建設関連な どのセクターにはより慎重な姿勢を維持する。

+/–
欧州では、ハイ・イールド企業のファンダメンタルズは非常に健全。新規発行はリファイナンスが中心。スプレッドが縮小しており、レンジ内で推 移している中で、投資先を厳選し、BB格/B格の銘柄に注目している。

バンクローン


+
バンクローンのスプレッドは比較的魅力的である。需要が堅調に推移している消費者サービス関連会社や、より必需性の高い消費者製品を手 掛ける会社を選好するとともに、魅力的な利回りを提供し、景気変動の影響を受けにくい会社に注目している。一方、化学や通信などの一部 の業種については慎重な姿勢を維持している。また、高格付けのローン担保証券(CLO)に投資妙味があると考えている。

当社は現在、銀行セクターの底堅い業績とリスク管理の向上を踏ま え、同セクターの投資機会に注目している。カジノ・セクターも堅調 を維持しており、通信・メディア・セクターについては金利上昇により 業績が圧迫される恐れがあるものの、基本的に前向きな見方を維 持している。また、エネルギーセクターついても、M&A活動の活発 化により魅力的なトータル・リターンを獲得できる可能性がある。

アナベル・ルドベック
グローバル投資適格社債運用チーム統括責任者
ポートフォリオ・マネージャー

ウエスタン・アセットのサブセクター別テーマ

セクター
主な見通し

自動車関連

中立の見通しを維持しているが、全米自動車労働組合(UAW)のストライキの収束、健全な労働市場、需要と供給の均衡を背景 に、やや強気バイアスとしている。

銀行

規制の厳格化、監視機能の強化、世界金融危機以降のリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は改善しており、底堅 い業績を上げているグローバルの大手銀行を大幅にオーバーウエイトする。

エネルギー

M&Aが増加しているためキャリーに着目して投資しているが、トータル・リターン狙うことも可能と考える。世界経済の成長減速に 伴い石油需要は鈍化しているが、OPECの減産、地政学的リスクの高まりを受け、原油価格に上昇圧力がかかっている。