当社の基本シナリオでは、世界経済が減速するとともに、インフレ率、特にサービス価格の伸びが鈍化すると想定しており、実際にそうしたシナリオが実現しつつある。インフレ懸念が後退する一方で、景気減速懸念が高まっていることから、各国中央銀行は政策金利を引き下げている。米国経済は底堅く推移しているが、今後は緩やかな景気減速が予想される。こうした環境の中で、当社では金利デュレーションのオーバーウエイトを維持しており、スプレッド・セクターに対して建設的な見通しを持っている。ただし、マクロリスクや政治リスクの高まりを引き続き警戒している。
- 米国では、最近の借入コストの低下によって住宅需要や個人消費が緩やかに下支えすると見込まれる中で、米国経済は2025年に入っても潜在成長率に近い成長を続けると予想する。新型コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回りは高止まりしている。
- 欧州では、来年に緊縮財政が実施されると見込まれ、このことが経済成長の下押し要因になる可能性がある。固定率付国債とインフレ連動債の両方を通じて、デュレーションのオーバーウエイトを維持している。
- 英国では、市場が織り込むターミナルレート(中央銀行が金融政策の一環として設定する最終的な政策金利水準)は依然として高すぎると考えられる。英国債はプラスのリターンを生み出すと予想する。
- 中国では、最近実施された景気刺激策によって経済の下押し圧力が緩和されると見込まれるが、抜本的な改革を行わない限り、構造的な不均衡を解消することは困難だと考える。
概要
世界的な経済成長は鈍化し、世界のインフレ率もおおむね後退している。中国の継続的なデフレ圧力、欧米の金融引き締め、複数の国での製造業とサービス業の需要低下などを背景に、世界的なインフレ上昇圧力は緩和されつつある。こうした傾向は、主要中銀が慎重かつ段階的な金融緩和策を推進していることと相まって、世界経済の成長とインフレをさらに抑制し、ひいては先進国国債利回りの低下と小幅な米ドル安につながると予想される。ただし、金融政策が失敗する懸念や、インフレ率が中銀の目標を上回って安定しつつあること、米国の経済成長が予想以上に強いこと、財政赤字拡大を補うため米国債が増発されていることなどは、いずれも市場ボラティリティの上昇局面につながる可能性がある。エマージング債券、ハイ・イールド社債、バンクローン、MBSの一部といったスプレッド・セクターは、魅力的な利回りを提供しているが、マクロ環境に対するセンチメントの予期せぬ変化や、地政学的動向、政策金利の道筋に関する不確実性に対して脆弱であると認識している。
2025年にかけて、世界経済では地域間の格差が拡大すると見込まれる。米国では景気拡大が続くと予想される一方で、欧州は景気下押し圧力に直面しており、英国経済は依然として低迷している。アジアでは、日銀が追加利上げのタイミングを模索する一方で、中国は景気刺激策を発表した。また、エマージング市場では選択的な投資機会が存在している。このように地域ごとに状況が異なるため、地域間の差異を考慮したきめ細かい投資アプローチを採用する必要がある。
主要ファクターと地域別レラティブバリュー
米国: 経済の ソフトランディングが見込まれる
米国では、雇用者数や賃金の伸びが鈍化しているものの、住宅需要や個人消費が底堅く推移すると見込まれるため、米国経済は2025年に入っても潜在成長率に近い成長を続けると予想。緩やかな財のデフレや、住居費およびサービスのインフレが鈍化していることなどから、月次のコア・インフレ率はFRBの目標水準近辺で推移すると見込まれる。新型コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回りは高止まりしている。
欧州: インフレ率は目標水準に達しつつも経済成長は低迷
欧州中央銀行(ECB)は年内に2回の利下げを実施すると予想。総合インフレ率はECBの目標水準まで低下した。サービス・インフレは高止まりしているが、2025年上半期には大幅に鈍化すると予想。経済成長は依然として低迷しており、ここ最近で景況感は改善したものの、再び悪化に転じている。来年には緊縮財政が実施されると見込まれ、このことが経済成長の下押し要因になる可能性がある。固定利付国債とインフレ連動債の両方で、デュレーションのオーバーウエイトを維持している。
英国: 金融引き締めからの転換が適切
英国の成長見通しは依然として弱いが、インフレ率は今年上半期に物価目標の2%まで低下したため、イングランド銀行は4年5カ月ぶりの利下げに踏み切った。賃金上昇や物価上昇に対する懸念が後退する中、追加利下げ観測が高まっている。ただし、市場が織り込むターミナルレートは依然として高すぎると考える。英国債はプラスのリターンを生み出すと予想。
エージェンシー・モーゲージ(MBS)は、期限前償還リスクが低く、スプレッドは魅力的な水準。ノン・エージェンシーMBS市場では、住宅ローン金利の低下により、住宅の値ごろ感が改善している。堅固な構造的プロテクションを有する高格付けのCMBSに投資機会を見出している一方、一部のABSセクターにおける消費者ローン・クレジットについては慎重な姿勢を維持している。
ウエスタン・アセットのセクター別テーマ
投資適格社債
ハイ・イールド社債
バンクローン
当社の調査によると、グローバル大手銀行、健全なバランスシートを有するエネルギー企業、およびアジアを中心とするカジノ・セクターに投資機会があると見ている。また、金属・鉱業セクターは引き続き魅力的とみて、オーバーウエイトを維持し、特に銅関連の銘柄を選好する。一方、食品・飲料セクターや小売セクターは、利益率の圧迫や個人消費の減少などを踏まえ、慎重な見方をしている。