2024年10月~12月期

市場概況:The Big Picture

経済動向やクレジット市場に関するウエスタン・アセットの最新の見解を債券投資家の皆様にご提供いたします。

当社の基本シナリオでは、世界経済が減速するとともに、インフレ率、特にサービス価格の伸びが鈍化すると想定しており、実際にそうしたシナリオが実現しつつある。インフレ懸念が後退する一方で、景気減速懸念が高まっていることから、各国中央銀行は政策金利を引き下げている。米国経済は底堅く推移しているが、今後は緩やかな景気減速が予想される。こうした環境の中で、当社では金利デュレーションのオーバーウエイトを維持しており、スプレッド・セクターに対して建設的な見通しを持っている。ただし、マクロリスクや政治リスクの高まりを引き続き警戒している。

マイケル C. ブキャナン
最高投資責任者(CIO)
要約
  • 米国では、最近の借入コストの低下によって住宅需要や個人消費が緩やかに下支えすると見込まれる中で、米国経済は2025年に入っても潜在成長率に近い成長を続けると予想する。新型コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回りは高止まりしている。
  • 欧州では、来年に緊縮財政が実施されると見込まれ、このことが経済成長の下押し要因になる可能性がある。固定率付国債とインフレ連動債の両方を通じて、デュレーションのオーバーウエイトを維持している。
  • 英国では、市場が織り込むターミナルレート(中央銀行が金融政策の一環として設定する最終的な政策金利水準)は依然として高すぎると考えられる。英国債はプラスのリターンを生み出すと予想する。
  • 中国では、最近実施された景気刺激策によって経済の下押し圧力が緩和されると見込まれるが、抜本的な改革を行わない限り、構造的な不均衡を解消することは困難だと考える。

世界的な経済成長は鈍化し、世界のインフレ率もおおむね後退している。中国の継続的なデフレ圧力、欧米の金融引き締め、複数の国での製造業とサービス業の需要低下などを背景に、世界的なインフレ上昇圧力は緩和されつつある。こうした傾向は、主要中銀が慎重かつ段階的な金融緩和策を推進していることと相まって、世界経済の成長とインフレをさらに抑制し、ひいては先進国国債利回りの低下と小幅な米ドル安につながると予想される。ただし、金融政策が失敗する懸念や、インフレ率が中銀の目標を上回って安定しつつあること、米国の経済成長が予想以上に強いこと、財政赤字拡大を補うため米国債が増発されていることなどは、いずれも市場ボラティリティの上昇局面につながる可能性がある。エマージング債券、ハイ・イールド社債、バンクローン、MBSの一部といったスプレッド・セクターは、魅力的な利回りを提供しているが、マクロ環境に対するセンチメントの予期せぬ変化や、地政学的動向、政策金利の道筋に関する不確実性に対して脆弱であると認識している。

2025年にかけて、世界経済では地域間の格差が拡大すると見込まれる。米国では景気拡大が続くと予想される一方で、欧州は景気下押し圧力に直面しており、英国経済は依然として低迷している。アジアでは、日銀が追加利上げのタイミングを模索する一方で、中国は景気刺激策を発表した。また、エマージング市場では選択的な投資機会が存在している。このように地域ごとに状況が異なるため、地域間の差異を考慮したきめ細かい投資アプローチを採用する必要がある。

ゴードン S. ブラウン
グローバル・ポートフォリオ統括責任者

主要ファクターと地域別レラティブバリュー


米国: 経済の ソフトランディングが見込まれる


+

米国では、雇用者数や賃金の伸びが鈍化しているものの、住宅需要や個人消費が底堅く推移すると見込まれるため、米国経済は2025年に入っても潜在成長率に近い成長を続けると予想。緩やかな財のデフレや、住居費およびサービスのインフレが鈍化していることなどから、月次のコア・インフレ率はFRBの目標水準近辺で推移すると見込まれる。新型コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回りは高止まりしている。


欧州: インフレ率は目標水準に達しつつも経済成長は低迷


+

欧州中央銀行(ECB)は年内に2回の利下げを実施すると予想。総合インフレ率はECBの目標水準まで低下した。サービス・インフレは高止まりしているが、2025年上半期には大幅に鈍化すると予想。経済成長は依然として低迷しており、ここ最近で景況感は改善したものの、再び悪化に転じている。来年には緊縮財政が実施されると見込まれ、このことが経済成長の下押し要因になる可能性がある。固定利付国債とインフレ連動債の両方で、デュレーションのオーバーウエイトを維持している。


英国: 金融引き締めからの転換が適切


+

英国の成長見通しは依然として弱いが、インフレ率は今年上半期に物価目標の2%まで低下したため、イングランド銀行は4年5カ月ぶりの利下げに踏み切った。賃金上昇や物価上昇に対する懸念が後退する中、追加利下げ観測が高まっている。ただし、市場が織り込むターミナルレートは依然として高すぎると考える。英国債はプラスのリターンを生み出すと予想。


エージェンシー・モーゲージ(MBS)は、期限前償還リスクが低く、スプレッドは魅力的な水準。ノン・エージェンシーMBS市場では、住宅ローン金利の低下により、住宅の値ごろ感が改善している。堅固な構造的プロテクションを有する高格付けのCMBSに投資機会を見出している一方、一部のABSセクターにおける消費者ローン・クレジットについては慎重な姿勢を維持している。

グレッグ E. ハンドラー
住宅ローン & 消費者ローン・クレジット部門統括責任者

ウエスタン・アセットのセクター別テーマ

投資適格社債


+/–
米国では、投資適格社債のバリュエーションは過去の水準と比べて割高に見えるが、これは投資適格社債市場が経済のソフトランディングを織り込んでおり、企業の底堅いファンダメンタルズや経営陣に対する信頼を反映しているためであると考えられる。企業の経営陣は保守的なバランスシート管理を行い、ディフェンシブな行動を取っている。投資適格社債の供給は予想以上に増加したが、利回りを求める投資家からの需要が引き続き旺盛であるため、需給環境は依然として良好である。

+/–
欧州では、自動車セクターなどの一部のセクターにおいて投資適格社債のファンダメンタルズが悪化しているが、銀行のバランスシートは依然として健全である。旺盛な資金流入が続いている一方で、新規発行は高水準で推移している。スプレッドは比較的タイトであるが、欧州の銀行セクターや不動産セクターの発行体に投資妙味があると考えている。

+
オーストラリアでは、景気鈍化にもかかわらず、ファンダメンタルズは依然として健全に推移している。当社ではクレジットのオーバーウエイトを維持、特に短期の銘柄を選好しており、業種については一部のREITと規制に守られた経営を行っている公益およびインフラ・セクターを選好している。また、無担保の金融シニア債や、海外の大手銀行の新発債も選好している。

ハイ・イールド社債


+
米国ハイ・イールド社債のスプレッドは、経営陣の慎重な姿勢、健全なバランスシート、および良好な需給環境を反映している。当社は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う不況からまだ回復途上にあるサービス関連セクター(航空、クルーズ船、およびホテルなど経済活動を再開した業種)や、エネルギーセクター(E&P)、ライジングスター候補銘柄に引き続き投資機会を見出している。消費財や小売り業、住宅建設関連などのセクターにはより慎重な姿勢を維持する。

+
クレジットのファンダメンタルズは依然として堅調。発行体は債務の満期長期化に注力しているため、社債の純供給は限定的。スプレッドは今年、最も縮小した水準、短期的なリターンは主にインカム重視となる。格付け別では、BB格/B格の発行体に引き続き注目。セクター別では、通信/ケーブル、消費者、運輸などのセクターの選好を継続。

バンクローン


+
バンクローンのスプレッドは比較的魅力的。引き続き、BB格のローンは高い信用力と、安定したキャリーを提供すると予想する。B格のローンについては、金利低下により借り手の金利負担も軽減されるため、投資先を厳選することで、トータル・リターンを確保できる可能性がある。化学や通信などの一部の業種については慎重な姿勢を維持する。また、高格付けのローン担保証券(CLO)に投資妙味があると考えている。

当社の調査によると、グローバル大手銀行、健全なバランスシートを有するエネルギー企業、およびアジアを中心とするカジノ・セクターに投資機会があると見ている。また、金属・鉱業セクターは引き続き魅力的とみて、オーバーウエイトを維持し、特に銅関連の銘柄を選好する。一方、食品・飲料セクターや小売セクターは、利益率の圧迫や個人消費の減少などを踏まえ、慎重な見方をしている。

マイケル T. ボロウスキ
米国コーポレート・クレジット・リサーチヘッド

ウエスタン・アセットのサブセクター別テーマ

セクター
主な見通し

自動車関連

中立のポジショニングを維持し、米国の自動車メーカーを選好している。米国の自動車メーカーは強固な事業基盤を有し、電気自動車事業の見通しと収益性に対してより現実的な見方を持っている。欧州では、複数のOEMメーカーと主要部品サプライヤーが根本的な課題に直面しており、これらの解決には時間がかかるものと考えている。

銀行

規制の厳格化、監視機能の強化、世界金融危機以降のリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は改善しており、底堅い業績を上げているグローバルの大手銀行を大幅にオーバーウエイトする。

エネルギー

エネルギー企業は健全なバランスシートを持ち、十分な流動性を確保しているため、前向きな見方を維持しているが、投資先は厳選する。原油需要は底堅く推移し、供給面の動向が原油価格に及ぼす影響は大きくなっている。エネルギー業界では、保守的な姿勢でM&Aに臨む企業が依然として多く、既存事業の設備投資についても慎重な意思決定が行われている。