2025年10月~12月期

市場概況:The Big Picture

経済動向やクレジット市場に関するウエスタン・アセットの最新の見解を債券投資家の皆様にご提供いたします。

世界的な不確実性が続く中で、 当社は慎重ながらも前向きな見通しを維持している。米国の底堅い経済成長、中国の政策主導の景気回復、先進国市場のインフレ圧力の緩和などを背景に、選別的な投資機会が生まれている。魅力的な利回りやクレジット・ファンダメンタルズの改善を受け、金融・財政環境が変化する中で、当社はファンダメンタルズが比較的良好なセクターを見極め、規律あるバリュー投資に引き続き注力している。

マイケル C. ブキャナン
最高投資責任者(CIO)
要約
  • 労働市場が軟化しているものの、米国経済は底堅く推移している。一方、インフレ率は米連邦準備制度理事会(FRB)の目標を上回っているが、財政・金融政策の支援により、2026年にかけて鈍化すると予想される。
  • 欧州と英国は貿易摩擦の悪影響を受けているが、インフレ圧力の緩和や利下げ期待を背景に、良好な投資環境が続いている。
  • 中国では、当局の政策支援や好調な輸出により、景気回復が進んでいるものの、構造的な問題が依然として残っている。日本では、根強いインフレ圧力を受け、追加利上げが実施される可能性がある。
  • カナダとオーストラリアでは、物価上昇圧力の緩和や中央銀行の柔軟な政策運営により、成長見通しが改善している。
  • 世界的に、投資適格社債とハイ・イールド社債のファンダメンタルズは堅調で、旺盛な投資需要が存在する。銀行、通信、エネルギーの各セクターには選別的な投資機会がある。
  • モーゲージ担保証券(MBS)やローン担保証券(CLO)などの証券化商品は引き続き魅力的な利回りを提供している。一方、消費者ローンABSについては、学生ローンの返済再開や労働市場の軟化を受け、下押し圧力がかかっている。
  • グローバル大手銀行、銅関連セクター、エネルギー産業の中流部門、運輸セクターを選好する。小売り、公益セクター、低格付けの消費者ローン・クレジットには慎重な姿勢を維持する。
  • マクロ経済や政策をめぐる不確実性が続いているものの、魅力的な利回りやファンダメンタルズの改善を受け、投資家心理が改善している。

世界的な不確実性が続く中で、ウエスタン・アセットは慎重ながらも前向きな見通しを維持している。労働市場が軟化し、インフレ率がFRBの目標を上回っているものの、米国経済は底堅く推移しており、財政・金融政策の支援により、2026年には潜在成長率近くまで回復すると見込まれる。欧州と英国は、貿易摩擦による悪影響を受けているが、インフレ圧力の緩和や利下げ期待を背景に、景気が下支えされている。中国では、当局の政策支援により、景気回復が進んでいるものの、構造的な問題が依然として残っている。日本では、根強いインフレ圧力を受け、追加利上げが実施される可能性がある。カナダとオーストラリアでは、物価上昇圧力の緩和や中央銀行の柔軟な政策運営により、経済環境が好転している。魅力的な利回りやクレジット・ファンダメンタルズの改善を受け、投資家心理が改善している。米国のイールドカーブはスティープ化しており、これは米国債の増発や財政悪化懸念を背景にタームプレミアム(上乗せ金利)が上昇していることを反映している。様々な要因が交錯する中でも、当社はファンダメンタルズが比較的良好なセクターを見極め、魅力的な投資機会を見出している。また、投資規律を遵守しつつ、バリュー重視の運用アプローチを採用している。

世界の主要国・地域の経済はそれぞれ異なる局面を迎えている。米国では経済が底堅く推移しており、中国では政策主導の景気回復が進んでおり、欧州ではインフレ圧力が緩和しつつある。こうした中で、当社はリスクを慎重に見極め、確信をもって判断しつつ、地域ごとに投資方針を定めている。ファンダメンタルズが良好で、政策環境が改善し、なおかつバリュエーションが割安な市場に注目しており、相対的に投資妙味が高い分野に戦略的に投資を行っている。

マーク・リンドブルーム
副CIO 兼 ブロード・マーケット部門統括責任者

主要ファクターと地域別レラティブバリュー

米国

労働市場が弱含んで いるが、2026年には政策面での支援が期待される

FRBと投資家は、労働市場の弱含みと、それが経済成長に及ぼす影響に注目している。2025年には経済が潜在成長率を下回る可能性が高いと考えられる一方、2026年にかけて明るい材料が増える見通しである。財政・金融政策の支援により、2026年には経済が潜在成長率近くまで回復すると見込まれる。インフレ率がFRBの目標である2%を依然として上回っている中で、当社はポートフォリオのデュレーションを中立近辺に維持するとともに、イールドカーブのスティープ化を想定したポジションを取っている。一部のスプレッド・セクターについては、バリュエーションの割高感を踏まえ、投資比率を引き下げた。

欧州

欧州は労働市場の軟 化や貿易摩擦の悪影 響を受ける可能性が ある

ユーロ圏経済については前向きな見通しを維持しているが、依然として課題は残っている。上半期には、関税導入前の駆け込み需要により、経済成長が押し上げられた。ただし、今後は駆け込み需要の反動が懸念される。米国との貿易協定が締結されたものの、景況感の改善には至っていない。また、貿易面で中国との激しい競争が続いている。労働市場は依然として健全であるものの、ドイツやフランスでは失業率が上昇している。以上を踏まえ、デュレーションの小幅オーバーウエイトを維持する一方で、ユーロをロング・ポジションとしている。

英国

イングランド銀行は、市場が現在織り込んでいるよりも大幅な利下げを行う見通し

英国経済は今後数四半期にわたり潜在成長率を下回る成長にとどまると予想され、労働市場がさらに減速するリスクもある。賃金の伸びが鈍化しているため、インフレ圧力の緩和が続く見通し。リーブス財務相は11月の予算案で増税を打ち出すと予想されており、こうした財政引き締めもインフレ圧力の緩和につながる見込みである。2026年の見通しを踏まえると、市場はイングランド銀行の利下げを十分に織り込んでいないと考えられる。


エマージング市場については、ファンダメンタルズが改善している一方で、バリュエーションに割高感が見られるため、投資先を厳選する方針である。高格付けのソブリン債と社債については、政策改革の進展やバランスシートの健全性などを踏まえ、前向きな見方を維持する。世界的な不確実性が続く中でも、エマージング債は、高水準な利回り、国際通貨基金(IMF)の支援による経済・財政の安定化、各国固有の信用要因など、分散効果が期待できる魅力的な収益源泉であると当社は見ている。

プラシャント・チャンドラン CFA
米国エマージング市場運用チーム暫定統括責任者

ウエスタン・アセットのセクター別テーマ

ファンダメンタルズ
テクニカルズ
バリュエーション

投資適格社債


米国: 企業業績は堅調(4-6月期の売上高およびEBITDAは4%増であり、利益率は依然として高水準)であるが、低所得層と高所得層の消費者の行動には乖離が見られる(高所得層はモノよりも体験への支出を引き続き優先)。投資適格社債は、リスク市場全般の動きに連動し、堅調な展開となっている。ただし、サブセクター間でパフォーマンスにばらつきが見られ、ケーブル、航空宇宙、および銀行などのセクターがアウトパフォームした一方で、メディア、運輸サービス、および消費者製品などのセクターはアンダーパフォームした。需給環境は健全。

欧州: 銀行セクターを中心に、ファンダメンタルズは堅調に推移。旺盛な需要があり、プラス成長が続く環境の中で金融状況は緩和。スプレッドは、世界金融危機降で最もタイトな水準近くにあり、割安感が薄れている。一部のセクター(自動車など)は循環的な逆風や、関税関連の不確実性に直面しているものの、スプレッドが年初来で最もタイトな水準に達していないセクターには依然として投資妙味がある。金融セクター、公益セクター、および一部の不動産関連企業を選好している。

オーストラリア: 投資適格社債には引き続き旺盛な需要があり、新規発行市場では応募超過の状況が見られ、スプレッドが縮小。初回発行体による安定的な発行が付加価値をもたらしている。企業のファンダメンタルズは依然として堅調であり、レバレッジ水準は抑えられており、格付けも概ね上向き傾向にある。キャリーの獲得を目的として、規制を受けている公益事業、インフラ関連、および大手銀行などの短期債に注目しており、資本構成全体にわたり機動的かつ柔軟な投資を行っている。

ハイ・イールド社債


米国: 過去の水準からすると、ハイ・イールド社債のスプレッドはタイトだが、ファンダメンタルズや需給環境は良好(例えば、デフォルト率は過去25年間の平均を下回っており、借り換え目的での資本市場へのアクセスは容易)、現在のスプレッド水準を裏付けている。利回りが7%を超えており、健全なキャリーが得られ、リスクが限定的であることから、この資産クラスへの配分が正当化される。景気循環セクターを選好し、格付けの高い銘柄に注目している。

欧州: 全体としてファンダメンタルズは引き続き良好。純供給は管理可能な水準で推移しており、ほとんどの債券発行が借り換えを目的としている。当社は引き続きBB/B格付けの発行体に注目しており、通信/ケーブル、一部の消費関連企業および資本財企業を中心に投資している。バリュエーションが割高であることを踏まえると、投資家は概してインカム中心のリターンが期待できると思われる。

バンクローン


レバレッジド・ローンは今年、キャリー主導の安定したリターンを提供。利下げ観測を受け、変動金利のバンクローンは固定金利商品をアンダーパフォームしているが、今後、金利低下局面では、インタレスト・カバレッジ・レシオが上昇するため、バンクローンの発行体にとって構造的な追い風になると考えられる。当社はBB/B格のローンを選好し、魅力的なキャリーが得られるB格のローンへの配分も維持。地政学的・経済的な不透明感が高い中でも、ローンは依然として約7%台半ばの利回りを提供しており、価格変動リスクが極めて小さいことから、投資妙味がある。

業種全体を見渡すと、インフレ、政策動向、および消費者の行動により、企業業績への影響がまちまちとなる中で、ファンダメンタルズには引き続きばらつきが見られる。銀行、エネルギー、および公益などのセクターでは底堅さが見られ、健全なバランスシートや規律ある資本管理に支えられている。 一方、ヘルスケアおよび通信セクターでは選別的な投資機会が現れ、イノベーションとコスト削減により、消費動向に敏感なセクターや製造業セクターでは、景気循環の軟化が相殺されている。

マイケル T. ボロウスキ
グローバル・クレジット・リサーチ・ヘッド

ウエスタン・アセットのサブセクター別テーマ

セクター
主な見通し

自動車関連

トランプ大統領が相互関税を発表した4月2日の「解放の日」以降の数カ月にわたり、リスク/リターンの機会がより均衡してきている。こうした中で、投資適格およびハイ・イールドのグローバル自動車セクターでは、ベンチマーク並みの投資比率を維持する方針である。ほとんどの完成車メーカー(OEM)およびサプライヤーでは利益率の圧迫が続くと予想され、このことが格付会社によるさらなる格下げにつながる恐れがある

銀行

規制の厳格化、監視機能の強化、世界金融危機以降のリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は改善、底堅い業績を上げているグローバルの大手銀行を大幅にオーバーウエイトする。

エネルギー

国内エネルギー産業は資本規律を維持しており、バランスシートや流動性は健全な状態にある。供給サイドが市場を主導しており、特にOPECプラスや市場シェアの調整が大きな影響を及ぼしている。将来の天然ガスのファンダメンタルズは魅力的なように思われる。当社は、天然ガスの生産者やパイプライン業者をオーバーウエイトとする一方で、石油生産者、油田サービス業者、精製業者をアンダーウエイトとしている。