2025年1月~3月期

市場概況:The Big Picture

経済動向やクレジット市場に関するウエスタン・アセットの最新の見解を債券投資家の皆様にご提供いたします。

2025年の債券市場は堅調な展開が予想される。債券利回りは魅力的な水準にあり、一部のスプレッド・セクターには投資機会が存在している。先進国の国債市場では、オーストラリア、英国、および欧州主要国の国債に投資妙味があると考えている。さらに、ストラクチャード・クレジット(特に、商業用不動産担保証券(CMBS)やローン担保証券(CLO)など)を含むクレジット商品や、高格付けのバンクローンにも投資機会があると見ている。特にトランプ政権が発足したことで、市場のボラティリティが高まる可能性があることから、アクティブ運用の重要性が増していると考えている。

マイケル C. ブキャナン
最高投資責任者(CIO)
要約
  • 全体的に利回りが高い水準で推移していることから、2025年の債券リターンについては楽観的な見方をしている。
  • 世界経済は減速基調にあるものの、プラス成長を維持すると予想。また、米国は他の主要先進国を上回る経済成長を続けると予想する。
  • 世界のインフレ率は中央銀行の目標水準に近づいている。ただし、国ごとに状況は異なり、特に米国ではインフレ圧力が根強く残っている(これは先進国の中では例外的な状況)。全体的なインフレ動向を踏まえると、各国中央銀行には利下げ余地があると考えられる。
  • スプレッド・セクターのファンダメンタルズは良好に推移すると見込まれ、現在のバリュエーションはこうした見通しを反映している。
  • オーストラリア、英国、および欧州主要国といった一部の先進国のデュレーション、さらには米国の短期国債に投資機会を見出している。
  • 一部の証券化商品や社債市場も魅力的な投資機会を提供している。

世界経済は減速しており、先進国市場とエマージング市場の両方でインフレ率が大幅に低下している。当社の基本シナリオでは、こうした傾向が今後も続くと想定する。財価格のインフレは、パンデミック前の水準をやや下回る水準で推移しているが、アジアからのデフレ圧力が継続しているため、今後大幅かつ持続的な上昇は見込みにくい状況にある。サービス価格のインフレは依然として高止まりしているが、労働市場が軟化し、サービスセクターの需要が減速しているため、賃金上昇圧力は弱まっている。インフレ動向が全体的に落ち着きを見せ、景気対策として金融引き締めの緩和政策が求められる中で、主要先進国の中央銀行は政策金利の引き下げを開始した。ただし、他の先進国とは異なり、米国ではインフレ圧力が根強く残っている。一方、世界経済の成長軌道は米国政府の政策に大きく左右される。ここ最近で債券利回りが上昇していることを踏まえ、金利デュレーションのオーバーウエイトを維持している。投資機会としては、オーストラリア、英国、および欧州主要国のデュレーションに加え、米国の財政政策の不透明感による影響を受けにくい米国の短期国債に注目している。スプレッド・セクターは良好なパフォーマンスが続いており、この傾向は続くと予想。一方、バリュエーションは長期平均と同等か、またはそれを上回る水準で推移している。一部のセクターや銘柄に投資妙味があると見ている。エマージング債はファンダメンタルズ面では引き続き魅力的だが、内外の政治リスクが一部の国のパフォーマンスの阻害要因となっている。

英国では経済活動が低調に推移しており、イングランド銀行(BoE)は金融引き締めの緩和を継続すると予想する。サービス価格が低下している中で、インフレ率は2025年4~6月期までに中央銀行の目標水準に戻ると見込まれる。欧州中央銀行(ECB)は2025年末までに政策金利を1.75%まで引き下げる可能性がある。当社は、英国と欧州主要国のデュレーションの小幅オーバーウエイトを維持する一方、ユーロについてはアンダーウエイトとしている 。

リチャード A. ブース
ポートフォリオ・マネージャー

主要ファクターと地域別レラティブバリュー


米国: 経済のソフトランディングが見込まれる


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米国では、住宅需要や個人消費が底堅く推移すると見込まれるため、経済は2025年に入っても潜在成長率に近い成長を続けると予想。コア・インフレ率はFRBの目標である2%前後で推移すると見込まれる。新型コロナ禍前の経済成長率やインフレ率と比べて、米国債利回りは高止まりしている。トランプ政権の政策をめぐる不透明感が強いため、2025年初めには市場のボラティリティが高まる可能性がある。


欧州: インフレ率は上半期に目標水準に達するも経済成長は低迷


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ユーロ圏の経済成長見通しは依然として厳しい状況が続いている。サービス価格が低下する中、インフレ率は2025年4~6月期までに目標水準に戻ると予想。欧州中央銀行(ECB)は2025年末までに政策金利を1.75%まで引き下げる見込み。固定利付国債とインフレ連動債の両方で、デュレーションの小幅オーバーウエイトを維持する一方、ユーロを小幅アンダーウエイトとする。


英国: 引き続き金融引き締めからの転換が徐々に行われる


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最近の英国の経済指標は市場予想を下回っており、今後も低調な状況が続く可能性がある。イングランド銀行(BoE)は昨年10月に発表された秋季予算案による影響を注視する必要があるものの、各種調査によると、物価への影響は限定的にとどまる一方で、労働市場は一段と軟化する可能性がある。こうした状況を受け、BoEは金融引き締めの緩和を段階的に進めると見込まれる。


バンクローン発行企業は、安定した経済ファンダメンタルズや金利負担の軽減により、業績の改善が見込まれる。こうした状況を背景に、安定的なインカム収入が期待できることから、 BB格のバンクローンを引き続き選好する。魅力的なインカム収入やトータル・リターン獲得のため、一部セクターではB格についても投資対象とする方針。一方、トータル・リターンを重視するポートフォリオにおいては、BBB格のローン担保証券(CLO)を引き続き選好している。

ライアン J. コーハン
バンクローン統括責任者

ウエスタン・アセットのセクター別テーマ

投資適格社債


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米国では、健全なバランスシートを維持し、経済の不確実性に対応できる態勢を整えており、また、経営陣も慎重な姿勢を維持していることから、投資適格企業のファンダメンタルズは引き続き堅調。発行は増加、需要も引き続き旺盛。社債利回りが魅力的な水準にあることから、2025年1~3月期も安定した需給環境が続く予想。良好なファンダメンタルズと需給環境から、現在のバリュエーションは妥当な水準にあると考える。

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欧州では、自動車などの一部のセクターにおいてファンダメンタルズが悪化しているが、銀行のバランスシートは依然として健全。スプレッドは比較的タイトではあるが、欧州の銀行セクターや公益セクターの発行体に投資妙味があると考える。不動産セクターの発行体については、2024年に好調なパフォーマンスを示したことから、より慎重な銘柄選択が必要と考えられる。投資適格社債の発行は記録的水準となっているが、この資産クラスへの資金流入が継続しているため、市場で十分に消化されている。

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オーストラリアでは、景気鈍化にもかかわらず、ファンダメンタルズは依然として健全に推移している。当社ではクレジットのオーバーウエイトを維持、特に短期の銘柄を選好しており、業種については一部のREITと規制に守られた経営を行っている公益およびインフラ・セクターを選好している。また、無担保の金融シニア債や、海外の大手銀行の新発債も選好している。

ハイ・イールド社債


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米国では、ハイ・イールド社債のスプレッドは、経営陣の慎重な姿勢、健全なバランスシート、および良好な需給環境を反映している。当社は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う不況から回復途上にあるサービス関連セクター(航空、クルーズ船、およびホテルなど経済活動を再開した業種)や、エネルギーセクター(E&P)、ライジングスター候補銘柄に引き続き投資機会を見出している。消費財や小売り業、住宅建設関連などのセクターにはより慎重な姿勢を維持する。

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欧州では、クレジットのファンダメンタルズは依然として比較的堅調。新規発行は引き続きリファイナンス目的が主導。スプレッドがタイトでレンジ内に留まっているため、格付け別では、BB格/B格の発行体に引き続き注目し、選別するアプローチを維持する。

バンクローン


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バンクローンは固定利付債に比べて相対的に魅力的な利回り水準を維持しており、2025年末にかけてさらなるスプレッドの縮小が見込まれる。信用力の高いBB格のバンクローンについては、引き続き5~6%程度の安定的なインカム収入が期待できると予想。セクター別では、財務基盤の強固な産業セクターの企業が安定的なバリュエーションを提供すると見ている。また、ヘルスケア、メディア、およびテクノロジーの各セクターでは、一部の銘柄が魅力的なトータル・リターンの機会を提供している。

当社は2025年に世界の航空渡航需要が拡大すると予想し、引き続き運輸セクターを選好する。人件費や航空機の整備費用、さらには空港使用料が上昇している一方で、単価の高いプレミアム・クラスの需要が増加している。こうした中で、大手航空会社はバランスシートを強化しており、十分な流動性を維持している。

スザンヌ M. トレップ CFA
リサーチ・アナリスト

ウエスタン・アセットのサブセクター別テーマ

セクター
主な見通し

自動車関連

中立の見通しを維持し、特に米国の自動車メーカーに注目している。米国の自動車メーカーは強固な事業基盤を持っており、電気自動車事業では現実的な見通しを持ち、収益性を重視している。トランプ大統領は関税引き上げを公約に掲げており、当社はこうした貿易政策が自動車メーカーや自動車関連企業の信用力に与える影響を注視している。

銀行

規制の厳格化、監視機能の強化、世界金融危機以降のリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は改善しており、底堅い業績を上げているグローバルの大手銀行を大幅にオーバーウエイトする。

エネルギー

経営陣の保守的な経営姿勢や、潤沢なフリーキャッシュフローの創出により、エネルギー企業は安定した財務基盤を構築している。エネルギー企業は余剰フリーキャッシュフローを株主還元に充当するとともに、M&Aを通じて事業規模を拡大している。ただし、2024年に社債のバリュエーションが大幅に上昇したことから、当セクターの投資比率引き上げについては慎重に判断する。