市場レビュー要約
世界的なディスインフレ傾向の継続は、グローバル経済の成長減速、米国経済が底堅く推移し景気後退を介していることと相まって、スプレッド・セクターを支える環境を創出しています。このような環境のもと、ストラクチャード・クレジットやラテン・アメリカを中心とするエマージング債に有望な機会が現出しています。ここでは、当社の総合的な見解*を要約します。
- 米国経済は減速が予想されるが、景気後退は回避する見込み
- 米国経済は個人消費を中心に底堅さを見せているが、消費支出に減速感がある。
- グローバル経済成長は鈍化しており、中国は緩やかなデフレの源泉となっている 。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)が重視するインフレ指標であるコア個人消費支出(PCE)は、FRBの目標近辺で、インフレ鈍化の好ましい傾向を示唆している
- 中国は緩やかなデフレにつながる課題に直面、インフレ率はゼロまで低下、デフレに陥る可能性もあり、世界的なディスインフレ傾向に寄与。
経済成長の減速を引き起こしているのは、世界的なディスインフレ、個人消費の減少、労働市場の鈍化、地政学的状況の不確実性、中国などの主要経済国が課題を抱えていることや、拡張的な財政政策の長期的な影響である。
世界的にディスインフレの過程にあり、その進行は均一ではなく緩やかであるが、正しい方向に向かっており、各国中央銀行に緩和の余地をもたらしている。
- 実質金利は現在、20年来の高水準にあり、債券の魅力的な投資機会が現出している。
- 景気の底堅さ、特異なインフレ圧力の持続、あるいは財政不均衡により、金利は高止まりする可能性がある。
- 欧州中央銀行(ECB)とカナダ中銀は既に利下げを開始。一方、FRBとイングランド銀行(BoE)は、金融緩和の前にディスインフレの持続がさらに必要と示唆している。
- こうした政策アプローチの相違は、地域により異なる経済状況やインフレ圧力を反映し、グローバル経済の複雑さを浮き彫りにしている。
高金利が持続する可能性はあるが、成長とインフレのトレンドが引き続き下降線を辿るに従い、時間の経過とともに金利は低下する可能性がより高いとみている。
各国中銀は、世界的なディスインフレ傾向や、底堅い経済成長を注視。緩和前に、インフレ率が持続的に低下し目標水準に向かうことに万全を期す必要性を見極めようとしている。
- トランプ氏が勝利、議会で共和党が過半数獲得の場合、減税、関税引き上げ、規制緩和などの政策はインフレ加速要因と見られ、長期金利が上昇する可能性がある。一方、こうした政策は企業収益やバランスシートの強化につながる可能性がある。
- 逆に、民主党が大統領選と議会選挙で勝利した場合も、減税措置は2025年末で期限切れであり、医療、社会プログラム、インフラ、規制への支出増は完全には相殺されない。インフレの可能性と、長期金利の上昇につながる可能性が高い。
- ウクライナ戦争は欧米の中国に対する見方を大きく変え、敵対関係に陥る可能性への懸念から 、中国の産業政策への反発や、サプライチェーンの中国離れにつながった。
- 特に中国との間で関税の引き上げや貿易摩擦が高まる可能性は、引き続き市場のボラティリティとリスクを高める重要な要因となっている。
両候補の最も大きな違いは、規制と税金に対するスタンスの二つである。
地政学的状況の不確実性により、引き続き市場のボラティリティは上昇しており、今後の選挙やその他の地政学的イベントを注意深く監視する必要がある。
選挙、債券、そしてその後:2024年の選挙
選挙の年は、新政権が表明した、もしくは市場が認識した政策転換から不確実性が生じる傾向がある。当社は、投資家として、歳出や税制、貿易政策、規制制度など、経済成長、インフレ、金利に影響を与える可能性のある分野で変化が生じるかを見極めるため、選挙結果を注視している。こうした要因の多くは、ボラティリティを高め、投資家の資金フローに影響を与えることが多いため、短期的な市場の動きや起こり得る結果を予測することは困難である。
当社の規律ある確立された投資プロセスは、選挙結果にかかわらず、短期的な市場ノイズによる影響を最小限に抑え、代わりに最大の可能性を示す分野に焦点を当てる。市場に関する当社独自の観点とファンダメンタルズに基づくバリュー投資のスタイルは、他の債券アクティブ運用会社とは一線を画すもので、多くの場合、良好な長期リスク調整後リターンをもたらす。一貫した再現性のあるこのアプローチは、市場のボラティリティと政治的不確実性が高まる米国の選挙年には特に重要である。
以下に本稿発表時点の選挙情勢を紹介し、変化する政治環境について知見を提供したい。
2024年米国選挙:金融市場への影響
一般に、米国大統領選挙とその結果が長期にわたり金融市場に大きな影響を与えた前例はない。金融市場は、景気や金融政策、企業業績など、他のさまざまな要因の影響を受ける可能性の方がはるかに高い。
米国の有権者を対象とした世論調査データによると、今回の大統領選の争点は、移民、税金、経済の3つとなっている。これらの問題に対する民主・共和両党のアプローチは大きく異なっており、家賃や住宅ローン、健康保険料、光熱費、食費、エネルギー費といった月々の支払額が上昇する中、有権者が経済を最大の関心事のひとつとするのも無理はないと当社は見ている。投資家がさまざまな問題を理解し、両大統領候補の相違点を明確化するため、以下に各党の立場をまとめた。
図1:有権者が重視する主な課題
民主党 |
トピック |
共和党 |
トランプ政権が行った複数の国境政策を一時停止または撤回したほか、米国への難民受け入れの上限を撤廃し、人道的なパトロールを拡大。 |
移民問題 |
トランプ候補は、バイデン大統領が引き起こした不法移民の急増にはより制限的な措置が必要だと述べている。また、「国境防衛」政策を復活させる計画で、出生地主義による不法移民の子供への米国市民権付与を廃止すると公約した。 |
民主党はバイデン政権下で法人税を28%に引き上げ、トランプ政権前の水準(35%)に近づけることを支持している。また、アメリカ人富裕層に高税率を課し、低所得者や家族向けの税額控除を拡大する可能性が高い。 |
税制 |
トランプ候補は、民主党が間もなく期限切れとなる所得税減税を廃止すると予想し、自身は幅広い減税を公約している。また、現行の法人税率(21%)を維持する一方、すべての輸入品に10%の共通関税を課し、中国からの輸入品には60%の関税を課す意向である |
民主党は、インフラ、製造業、クリーンエネルギー、雇用拡大への投資に重点を置いている。経済データはバイデン大統領時代の力強い成長と雇用創出を示している。 |
経済 |
トランプ候補は、バイデン大統領の財政支出がインフレ上昇の原因だとし、選挙戦では減税とビジネス規制の緩和の公約を掲げている。FRBについては、7月に、パウエルFRB議長に任期を全うさせると発表した。 |
当社の運用見通し
図1に示した3つの最重要課題に加えて、有権者や債券投資家に影響を与える他の主な要因を以下に挙げる。
米国の財政赤字
- 米国の財政赤字は依然として大きな懸念材料である。基礎的財政赤字(利子を除く)と完全財政赤字(利子を含む)の両方が財政問題全般の一因となっている。最近の金利上昇は財政赤字を悪化させており、このままでは金利負担が米国経済に大きな負担になるとの予測もある。
- 長期的にみて、米国の巨額の財政赤字は対GDP比で過去最高水準に近づいており、将来の経済成長に対する大きな脅威となっている。短期的には、いずれの政党も財政赤字への対応に消極的であることが、金利に直接影響を与える可能性が高い。
インフレ
- 世界的にディスインフレ傾向が続いており、多くの地域でインフレ率は中央銀行の目標に近づいている。米国では、FRBが重視するインフレ指標であるコア個人消費支出(PCE)がFRBの目標である2%に近づいており、世界的にインフレ率は低下しつつある。
- ECBとカナダ中銀はすでに利下げを開始している一方、FRBとイングランド銀行(BoE)は、金融緩和措置を取る前に、ディスインフレ持続のさらなるエビデンスを求めている。
経済成長
- 米国経済は底堅さを見せてきたが、ここにきて成長率は徐々に低下している。こうした減速にもかかわらず、景気後退は回避されると予想され、「ソフトランディング」シナリオの可能性がより高まっている。
- 世界的に経済成長は減速しつつある。中国は経済の課題に直面しており、製造業は減速し、輸出は減少し、世界的に緩やかなディスインフレ傾向に寄与している。
- 米国の個人消費は、特に低所得者層の間で沈静化の兆しを見せている。これは今後も続くと予想され、全体的な景気鈍化の一因となっている。
米ドル
- 米ドルは堅調な景気と高金利を特徴とする、世界でも卓越した経済パフォーマンス(米国例外主義)により、高止まりしている。
- 米国の経済成長は引き続き鈍化し、グローバル経済はプラス成長を維持すると予想されるため、ドル安が進むと予想される。
- ドル安は、ラテン・アメリカのような地域の実質金利の高い発行体の好調なパフォーマンスをけん引する可能性がある。