2025年4月~6月期

市場概況:The Big Picture

経済動向やクレジット市場に関するウエスタン・アセットの最新の見解を債券投資家の皆様にご提供いたします。

2025年の債券市場は堅調な展開になるとの見通しを維持している。債券利回りは魅力的な水準にあり、一部のスプレッド・セクターには投資機会が存在している。トランプ政権の政策の不確実性により、ボラティリティの高い状態が続く可能性がある一方で、既存のポジションを積み増す機会も提供されると見ている。当社はクレジットのファンダメンタル分析を徹底して行い、短期的には高格付け銘柄への投資比率を引き上げている。

マイケル C. ブキャナン
最高投資責任者(CIO)
要約
  • 2025年の債券リターンについては楽観的な見方を維持している。
  • 米国では、関税政策によって経済成長が鈍化すると見込まれるが、原油価格の下落、減税措置の延長、寛容な規制環境などを踏まえると、景気後退は回避できると予想する。
  • 関税の導入によって米国のディスインフレ傾向が一時的に中断する可能性があるが、インフレ圧力は徐々に緩和すると予想する。
  • 欧州では、インフレ率の低下に伴い、欧州中央銀行(ECB)が利下げを継続すると予想。ドイツのインフラ投資や、欧州連合(EU)の防衛費増額などは、市場の信頼感を高め、将来の経済成長に寄与すると見込まれるが、短期的な課題も残る。
  • 中国では、米国の関税政策の影響で経済成長が減速する可能性がある。中国は、内需の喚起と、消費を妨げる要因の解消に向け、大規模な景気刺激策を実施する可能性がある。

トランプ政権の関税政策を受け、金融市場に動揺が広がった。こうした不確実性の高まりにより、世界経済は減速すると予想されているものの、プラス成長を維持すると見込まれる。関税をめぐる不透明感、移民規制による労働力不足、および政府支出の削減など、様々な要因によって米国経済は減速している。一方、欧州ではEUの防衛費増額やドイツのインフラ投資によって大きな財政効果が期待され、このことがユーロ圏の経済成長を下支えし、関税による不透明感を緩和する役割を果たすと見込まれる。中国ではディスインフレ圧力が根強く残っており、不動産市場への懸念から信頼感は低迷しているが、財政刺激策と金融緩和策により、景況感は徐々に改善しつつある。主要国・地域の金融政策は依然として引き締め的であり、中央銀行は2025年に利下げを継続すると予想される。米国経済が失速した場合でも、米連邦準備制度理事会(FRB)は迅速に対応できる態勢を整えている。政府債務水準は引き続き上昇しており、財政政策への懸念から、イールドカーブはスティープ化する可能性がある。当社では金利デュレーションの小幅オーバーウエイトを維持しているが、短期債券を中心にオーバーウエイトしている。セクターのスプレッドは拡大しており、現在のバリュエーションは当社の基本シナリオにおけるフェアバリュー(適正価値)に近づいている。

関税政策によって、各国中央銀行は難しい舵取りを迫られている。米国の関税政策の発表により、グローバル市場の不確実性が高まっており、ディスインフレ傾向が一時的に中断する可能性があるものの、各国中央銀行は利下げによって景気を下支えする姿勢を維持している。FRBは米国経済の失速に対して機動的に対応する態勢を整えており、他の中央銀行も金融緩和を継続すると予想されている。貿易政策の影響で市場が混乱している中で、中央銀行の柔軟な政策対応は経済の安定に重要な役割を果たしている。

マーク・リンドブルーム
副CIO 兼 ブロード・マーケット部門統括責任者

主要ファクターと地域別レラティブバリュー


米国: 経済のソフトランディングが予想される


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経済成長を維持しながらインフレを抑制することは非常に困難であり、トランプ政権の関税措置によって政策運営の難しさが増している。市場の不確実性が高まってはいるものの、米国経済は2025年にプラス成長を維持できると見込まれる。コア・インフレ率を見る限り、サービス部門のインフレ率はすでに鈍化しており、関税による物価への影響は今年限りの一時的なものにとどまると見込まれる。景気後退を回避できれば、米国債利回りは4%~5%のレンジで推移すると予想される。


欧州: インフレ率は上半期に目標水準に達するも経済成長は低迷


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欧州中央銀行(ECB)は今年も利下げを継続すると予想。総合インフレ率は目標水準近辺、サービス部門のインフレ率も当社の予想通り鈍化し始めている。ドイツの大規模なインフラ基金設立やEUの防衛費増額は、経済成長を押し上げ、市場の信頼回復に寄与すると見込まれる。当社は、固定利付国債とインフレ連動債を通じて、デュレーションの小幅オーバーウエイトを維持している。


英国: 金融引き締めをさらに緩和することが依然として適切


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2024年半ば以降、経済成長は停滞、今後も低調に推移する可能性がある。総合インフレ率は上昇したが、予測期間内にイングランド銀行(BoE)の2%の目標水準に戻ると見込まれる。労働市場がさらに軟化することによって賃金の伸びが鈍化すると予想しているため、BoEは現在の市場予想を上回る利下げを行う可能性がある。英国債はプラスのリターンを生み出すと見込まれる。


商業用不動産担保証券(CMBS)のファンダメンタルズは改善、スプレッドも魅力的な水準にあり、投資妙味があると見ている。ローン引受基準が厳格化されたことで、高格付けかつ低レバレッジの投資対象が増えており、安定したインカム収入と魅力的なトータル・リターンが期待できる。不動産のファンダメンタルズは健全であり、不動産価格は底値圏から回復している。関税政策の影響により、商業用不動産セクター全体で需要が大幅に落ち込む可能性があるため、引き続き慎重な姿勢を維持している。

サイモン・ミラー
ポートフォリオ・マネージャー

ウエスタン・アセットのセクター別テーマ

投資適格社債


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米国の企業のファンダメンタルズは引き続き堅調。政策の不透明感を背景に、経営陣は慎重姿勢を強め、より保守的な業績見通しを示している。市場のボラティリティが高まる中、業種間の格差が拡大し始めている。銀行、非景気循環、公益などのセクターがアウトパフォームする一方で、自動車関連やエネルギーなどのセクター、および低格付け銘柄はアンダーパフォームしている。機関投資家からの安定した投資需要が需給を支える要因。グローバル大手銀行は、保守的な管理ながら業績は安定、潜在的に有利なリスク・リターン特性があり、魅力的な投資機会である。

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欧州のクレジット市場のファンダメンタルズは引き続き健全であり、特に銀行セクターが堅調。欧州の公益セクターの信用格付けは安定しており、エネルギー転換に向けた投資資金を確保するために、バランスシートを拡大する余地がある。自動車関連などの一部のセクターは、景気循環的・構造的な逆風や、関税政策をめぐる不透明感に直面している。当社は、金融、公益、一部の不動産企業を引き続きオーバーウエイトする。

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オーストラリアでは、ファンダメンタルズは引き続き健全であり、ディフェンシブな銘柄を選好。また、独占的・寡占的な企業や、規制に守られた公益・インフラ企業に集中投資しているため、安定したキャッシュフローと収益を確保できている。償還期限の短い銘柄に集中投資しているが、ボラティリティが高まる局面では機動的な投資を行う。プレミアムのある新規発行体、一部のREIT銘柄、および公益/インフラ資産を引き続き選好。

ハイ・イールド社債


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米国ハイ・イールド社債のスプレッドは、経営陣の慎重な姿勢、健全なバランスシート、および良好な需給環境を反映している。当社は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う不況からまだ回復途上にあるサービス関連セクターや、エネルギーセクター(E&P)、ライジングスター候補銘柄に引き続き、投資機会を見出している。消費財や小売り業、住宅建設関連などのセクターにはより慎重な姿勢を維持する。

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欧州では、企業のファンダメンタルズは引き続き良好。債券発行の大部分が借り換え目的であり、市場への純発行量は依然として少ない。BB/B格の債券を引き続き重視し、特に通信/ケーブル、消費者関連、および一部の資本財企業を選好している。

バンクローン


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成長期待が後退する中、バンクローンのポートフォリオでは、健全なバランスシートを有する企業が発行するBB格のローンを中心にポジションを構築。ディフェンシブなセクターでは、B格のローンを厳選し、他の債券商品と比べて魅力的な利回りを獲得することに努めている。景気循環セクターは不安定な展開が予想され、特に自動車関連、化学、建設資材、および通信などの業種については懸念が残る。

当社は主要セクターに対して前向きな見通しを維持している。グローバルな大手銀行はリスク管理を厳格化しており、安定した業績を上げている。エネルギー産業の中流部門の企業は健全なバランスシートを維持し、堅調な業績を上げている。カジノセクターのファンダメンタルズは引き続き健全であり、アジアでは高い成長が見込まれる。通信セクターの企業は、継続的な収益と潤沢なキャッシュフローを生み出しており、景気変動の影響を受けにくいディフェンシブな特性を示している。市場のボラティリティが高まる中でも、これらのセクターはポートフォリオに一定の安定性をもたらすことができる。

マイケル T. ボロウスキ
グローバル・クレジット・リサーチ・ヘッド

ウエスタン・アセットのサブセクター別テーマ

セクター
主な見通し

自動車関連

投資適格級銘柄とハイ・イールド銘柄の両方でベンチマーク並みの投資比率を維持する方針。リスク・リターン特性は過去12~24カ月と比較して悪化。関税政策をめぐる不透明感により、米国と欧州の完成車メーカー(OEM)および一次サプライヤーのスプレッドが大幅に拡大。ライジングスター候補銘柄はほとんど見当たらず、今年は格付け会社による格下げが相次ぐと予想している。

銀行

規制の厳格化、監視機能の強化、世界金融危機以降のリスク管理体制の充実などにより、銀行のリスク特性は改善、底堅い業績を上げているグローバルの大手銀行を大幅にオーバーウエイトする。

エネルギー

ベンチマーク並みの投資比率を維持する方針。中流部門/パイプラインセクターは小幅オーバーウエイト。企業が低成長環境下で資本規律を維持し、バランスシートの健全性を保っていることや、整理・統合の動きが進んでいることは、全般的にポジティブな要因。関税政策の影響で原油価格が下落し、ダウンサイド・リスクが上昇。天然ガスのファンダメンタルズは依然として堅調。